前回から日が空いてしまいましたが、今回も引き続き受刑者との関わりを通してその精神性に触れてもらえればと思います。

エピソード2)夜勤での籠絡
 単独室には食事や修理願伝票などをやり取りするための小窓があります。開閉は外から刑務官が行なう以外中からは開けられない構造です。(単独室は独居と呼ばれ、素行が良い受刑者、暴力団幹部など他の受刑者への影響が大きい受刑者、違反行為をして調査中の受刑者、薬物中毒や精神異常で工場での作業ができない受刑者、などのケースで使用されますが、今回は工場で作業を行い素行が良い場合に使用される単独室での話)

 入職してから数ヶ月経った頃、報知器(受刑者が用件を伝えるためのもの)を降ろして来てこう言いました。
オヤジ、大丈夫ですか。
 後になってから振り返れば、下心ある、みえみえの罠だったのですが、当時その言葉を優しさだと受け取ってしまいました。看守の世界は本当に厳しく、翌日の配置が初めて就く工場での勤務であっても、マニュアルが無い、聞かなければ教えてくれないどころか、聞いても教えてもらえない、号令一つ言い間違えたらその工場担当刑務官から怒鳴り散らされる、というか間違えてなくても声が小さい、キレがないなど曖昧な理由でも怒鳴られる理不尽な世界です。

 そして、その全てを受刑者は知っています
 正直に言うと私は受刑者から情報を得ていました。翌日の工場の号令や誰が係で、時間ごとに何をすれば良いのか、などです。その単独室の受刑者も係で素行が良いはずであるという思い込みと、精神的にきつい中で優しい言葉をかけてこられたことによる精神的な油断から、受刑者を味方だと思ってしまいました。ちなみにこれは私に限ったことではなく、刑務所では本当によくあることです。 

 手のひらを返す瞬間は必ず来ます。それが目的だったんだから。
 ある日、その受刑者が布団のワタが寄っていて気に入らないから交換伝票が欲しい、と言ってきました。とても交換するような状態のものでは無かったので断ると、

「良いんですか。これまでオヤジ(私のこと)が 聞いてきた事とか喋ってきた事、うちのオヤジ(工場担当刑務官)に言いますよ。」

 と言ってきました。瞬間青ざめました。受刑者に仕事を聞いていた、なんてことが広まれば、工場担当からの呼び出しはもちろん、幹部からの調査を受ける可能性まで考えたからです。別に受刑者と会話することが法で禁じられている訳ではないので、刑務所の常識や世界観に洗脳されていなければ、「だから何」と返せるのですが、数ヶ月で十分私も染まってしまっていました。

 その受刑者は、刑務所の世界観や、新人がその世界観を知って思考が染まるまでどのくらいかかるのかを把握した上で、報知器を降ろして優しい言葉を掛けてきたのです。この経験が本当に私に”受刑者の怖さ”を教えてくれました。

この時はその工場に頻繁に勤務して出入りしている夜勤班の先輩が助けてくれました。その受刑者も、その夜勤の先輩が長く勤めていて日勤者になる手前の立場にいることを知っており、関係を損ねることの損得勘定が働いたんだと思います。本当に人生終わったくらい思いました。

この事例から、囚人マインド、強かさ、伝われば良いな、と思います。
今日も、レッツトレーニング😀